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炬燵

「温めておいたわよ」とはレイの声。
うさぎと美奈子が大きな歓声をあげて部屋の中へとなだれ込み、後を追うようにレイの窘める声が響いた。


「まぁまぁいいじゃないか」


まことが宥めれば、レイはじろりと睨んで部屋を指さす。
寒い中やって来る皆のためにとレイが10分前に点けておいた炬燵にうさぎと美奈子が満面の笑顔で入り込んでいた。


「そんなこと言ってていいの?
 もう四辺のうちの二辺は埋められちゃったのよ」


指の先を追って部屋の中を覗き見たまことは「あー……」と苦笑いして頭をかいた。
隣に立つ亜美の顔をちらりと伺って、仕方ないか、と腰に手を当てた。


「亜美ちゃん、狭いけど一緒に入ろっか?」
「……え!?」


驚く亜美に、まことも目を丸くして驚いた声を出す。


「だってレイちゃんの部屋だし、一辺はレイちゃんが」
「そ、それは、そうだけど……でもっ」


両手をパタパタとさせて亜美は頬を赤らめる。
その理由が分からず、まことは首を傾げて問い返した。


「何か問題でもあるの?」
「……ある、わけじゃ……ないんだけど……」


亜美はちらりと部屋の中の小さな炬燵の一辺の長さを見て、そしてまことの身体を見る。
更に上がった体温に思わず両頬を手で覆い、そしてレイを見る。


「レイちゃ……」


レイのため息が聞こえるようだった。
「何よ?」と腰に手を当てたまま不機嫌そうに、けれどレイは察したように亜美に一歩寄る。


「亜美ちゃん、レイちゃんと一緒のがいいのかい?」


まことの間の抜けた声に、レイはじろりと視線を送る。


「な、なに?」
「別に……」
「なんなんだよー」


拗ねる声を出すまことに亜美が慌ててフォローしようとするのをレイが軽く挙げた手で制止する。


「私の部屋の炬燵はそれほど大きなタイプじゃないわ。
 だから体格の良いまこちゃんとでは狭いんじゃないかしら」
「体格良いって……」


少し傷ついた声を出すまことに亜美が咄嗟に口をはさむ。


「まこちゃんの身長は素敵だと思うわ」
「亜美ちゃん……っ、ありがとう」
「そんな……思ったことを言っただけで」


恥ずかしそうに俯いた亜美に、レイは今度こそため息をついた。


「二人共、そういう話してるんじゃないわよ」
「……ごめんなさい」
「別に……いいけど……」


きゅっと傷んだ胸の痛みを抑えるように胸元に手を寄せて、そしてレイは話を戻す。


「だから、単純に考えれば体格が小さな人同士が二人で一辺に座ればいいと思うの」
「確かに。合理的ね」
「うん、レイちゃんさすが」


二人の同意を受けて、レイはまた小さくため息をついた。
どうせため息の理由を二人が知ることはない。
そして三人は室内をもう一度見渡す。


「体格が小さいというと……」
「でも、うさぎちゃんは」
「そうだね、うさぎちゃんは」
「あの子はびーびー騒ぐから一人でいいわよ」
「レイちゃん……」
「その言い方……」
「何よ」


言い方はどうあれ三人の総意として、うさぎには一辺を使ってもらいたかった。
そうなると残りは――。


「美奈子ちゃんか」
「真面目にお勉強してくれるといいんだけど」
「簡単じゃないだろうねー」


顔を見合わせてクスクスと笑い合う二人を尻目にレイは腕を組んで考えだす。
普通なら考えなくていい心配なのだろうが、相手は、あの、美奈子なのだ。
亜美が真剣にお勉強している時、うさぎやまことに説明をしている時、レイから見ても亜美は隙だらけに見える。
それを、あの、美奈子に密接させて隣同士で座らせて何もないと言い切れるだろうか。


「ないわ……!」


思わず声に出た反語に、まことと亜美が振り返る。


「どうかした?」


首を傾げる亜美の無防備な表情をレイはきっと睨んで語気を荒らげる。


「もうっ亜美ちゃんがそんなんだからいけないのよ」
「え?えええ???」
「亜美ちゃんがどうかしたのかい?」


状況が掴めていない亜美とまことを無視してレイは事態を振り出しへと戻す。


「別に分からなくていいわよ。
 美奈子ちゃんと亜美ちゃんの組み合わせは駄目ッ」


言い切られてしまうと弱い二人は素直にそのまま「じゃあどうしようか」と仲良く考えだして、レイはまた肩を落とした。
けれどその力の抜けた身体も亜美の一言で一気に強張る。


「残るは、レイちゃんと私かしら」


何故、その可能性を考えなかったのか、不思議なくらいで、自分が恨めしいほど愚かに思えた。


「ちょっ…それはっ」


珍しく頬を赤く染めるレイに、亜美はきょとんと目を丸くする。


「いや?」
「な……っ」


まんまるとした青い瞳に射られて言葉を飲み込むしかないレイに、まことは笑みを漏らして助け舟を出した。


「亜美ちゃん、そんな言い方したらレイちゃん断れないだろ」
「そう……ね、ごめんなさい」


すぐに素直に謝る亜美にレイは慌てて否定の言葉を口にする。


「あ、謝ることないわよっ別に嫌じゃないし!!」


そしてすぐに後悔する。


「本当に? 良かったわ!」


ぱぁっと嬉しそうな笑顔を見せる亜美と、満足気な表情のまことに、最早、否定の言葉さえ言えない。



「ねーねー!まーだーーぁ?」


無邪気なうさぎの声が騒がしくて、レイは思わず声を荒らげて振り返る。


「うっさいわね!今行くところよ!!」


そしてその言葉は最後まで言い切ることができず、室内の状況に三人は言葉を失う。


「……うさぎ、なによそれ」
「美奈子ちゃん……そりゃあないんじゃないか」
「二人とも……お勉強する気ある?」


力の抜けた三人の声に二人は明るい笑い声と一緒に並べた顔を差し向ける。


「だって、こうしたほうがあったかいじゃない!」
「ぬくぬくよーーー!」


そりゃそうでしょうね、と呻くように言ったのはレイだったか。
三人の思惑もなんのその二人は仲良く並んで首だけ炬燵布団から出して並ぶ。


「双頭こたつむりーぃ」
「そーとー」


楽しそうな声に三人はめいめいに頭に手を当てて、そしてゆっくりと残った三辺に座り込む。
足は伸ばせないので正座して、炬燵布団を太ももにだけかける。
うさぎと美奈子の楽しそうな笑い声が響く部屋の中、三つの大きなため息が重なり、そして消されていった。