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欲望


それでも、答えは決まっている。
例えあなたが、私の恋人だとして、想い人だとして、それが何の関係があるだろう。
どれほど傷付いても、恨んだとしても、こうして肌を重ねた朝でさえ、答えは変わらない。


当たり前のように答えるだろう。
そのためなら、何時でも死に赴く、と。


重なる肌の熱は、何時離れる時が来るとも知れないこの世で一番不確かな熱。
離れなければならない時は、迷わない。


けれど、亜美ちゃん。


肩に頬を乗せる彼女の睫毛はしっとりと濡れて、朝の光を反射する。
離れる決意は出来ていても、離れられる覚悟は出来ていない。
エゴでしかないと解っていてもなお、それは想像すら難しかった。
彼女がどうやってか耐えたはずのそれを、耐える立場になって想像する、だけのことが難しい。
覗く唇は赤色に、肌は白く、頬は桃の色。いつか消える色。


「……どうかした?」


何も言わないままのまことを見上げて亜美は言う。
碧い瞳がまことを捉えて映す。物憂いに曇る表情は透明な碧に似合わない。


「先に――」


これを言ってしまうのは甘えだと、エゴだと解っている。
口にしてしまえば怒られてしまう気がして、けれど重なる身体を両手で引き寄せる。
力を込めて抱き締める身体は細く華奢で柔らかく、このまま無くなってしまうのではないかと思う程に心許ない。


「“先”……?」


亜美の声は引き寄せた分、近くに、囁く声となる。


「私が先に行く」
「……」


行かせたくない。どうあっても――彼女が命令だと、言わない限りは。
自分の役割は先鋒のはずだ。後方には向かない。
どうしようもない状況で、その中で活路を見いだすには向いていない。
それはきっと亜美の方がずっとずっと得意なはずだ。
心の中で繰り返しているのはエゴを押し付けてしまう言い訳。
そう解っていても、抱き締めた小さな身体が愛おしくて、離してしまいたくない。
いつ離すことになるか解らないその身体を、だからこそ離せないでいる。
見上げてくる彼女の顔さえ見れずに、ただ睫毛のしばたく音を聞く。
何の話か伝わっていても、いなくても構わない。ただ腕の中の熱が愛おしい。


「行かせない」


きゅっと力を込めた腕の中、亜美のふふっと漏らす微笑みが聞こえた。
驚いて方向を見ると、先ほど見た光景と変わらない見上げる碧い瞳。
ほんのりと浮かんだ笑みの理由が解らないままに、吸い込まれる深い水の色。


「まこちゃんがそうしたいなら、構わないわ」


ふっと彼女は笑う。あなたの言う愛などまるで小さいものだという風に、その笑顔は優しく朝の色を変えて行く。


「私は必ず見送るから」


瞬く先で亜美は瞼を伏せて、喉にそっと唇を落とす。
ただ、ひとつの想いを添えて。


あなたに、残される悲しみは、渡さない。